ミレット(millet)という作物をご存知だろうか。ミレットは気候に対する適応力が優れており栄養価が高いのである。この点に着目して、国連は2023年を「国際ミレット年」と定めた。
ミレットがよく雑穀と翻訳されているが、日本では雑穀と言えば古代米、豆類、麦なども含まれている。それに対して英語でミレットをいうと、こういう大きい粒の穀物が含まれていない。ミレットの全部がイネ科の小さい穎果をつける穀物である。これは日本でも知られている、粟(アワ)、黍(キビ)、稗(ヒエ)のほか、世界で食用にされている各種の雑穀も含まれている1。
国連食糧農業機関 (FAO2)による重要情報
実際、すでにミレットはサハラ以南のアフリカとアジア各地で何千万人という人々の食料として供されている。また、それらの地域では伝統・文化と深い繋がりがあり、これらミレットへの信頼度は高い。
それにミレットの長所を加えてFAOの2030年持続可能な開発目標を達するには役に立つと考えられている。
これもFAOの本部で06/12/2022におこなわれた「2023年国際ミレット年」の開催式のメッセージである3。
開催式でFAOの事務局長は「ミレットは古代から主要食糧として重要視されていました。FAOが目指す小規模農家への支援、持続的な開発、食の安全確保、地球温暖化への対応、生物多様性の促進、アグリシステムを進化させることに対して、ミレットは目的達成へのカギとなります」とミレットの重要性に言及した。
また、この開催式において、アミーナ・J・モハメッド国連副事務総長モやインドのナレンドラ・モディ首相、それぞれのメッセージが披露された。ナイジェリアとパナマの大臣のスピーチもあった。その国々はミレットとこの「2023年国際ミレット年」の深い関心を示した。
国連の目標は、この「2023年国際ミレット年」に通して、若者、農家、社会の皆の関心を高めることである。それに国の政策に影響を与えて、ミレットの生産や貿易を広げようにしている。
ミレットの利点
このようにミレットFAOにはかなりいい評価されている4が、その理由をもう少し深く見よう。
- ミレットは厳しい気候の耐性がある。
ミレットは脱水、病気、害虫に強いので、気候が厳しいところででも育てることができる。特に、他の作物よりミレットは乾燥地に適応している。それに、ミレットは低肥料でできるので、乾いた痩せ地でも育ち、ミレット自体で土を被覆し土の悪化を防ぐことができる。
おかげで、ミレットは他の作物がとりにくい、もしくはとれない(ドライシーズン)乾燥した季節や急な天気の変化でも食料不足の危機を耐える力がある。
- ミレットは栄養価が高く健康な食物。
ミレットには、ミネラル、タンパク質、鉄分などが含まれており、酸化防止の作用もある。それに全粒穀物として、食物繊維がある。他の穀物に対して、ミレットは栄養素のバランスが良い。
ミレットはグルテンフリーで、低血糖指数なので、セリアック症と糖尿病の人たちにも適している食品だ。
- ミレットは小規模農家達に適している穀物である。
小規模農家、特に自分の手で自分の食料を得ている農家の特徴は資金が少ない。その上でなにより安定な収穫ができる作物を求める。気候にかからわず毎年収穫でき、低肥料で作れる栄養価の高いミレットはこの役割に当てはまる。
- ミレットの売買でグローバル貿易の多種多様が高まる。
最近のロシアによるウクライナへの侵攻のように穀物マーケットがショック受けるときに、ミレットが麦や米のように貴重な代替になれる。この多種多様は、グローバル貿易の安定さを高まるし、他の穀物依存を抑えることができる。
- ミレットはいろんな使い方がある。
ミレットは種類が多い。その種類の中でもいろんな品種もある。おかげで、遺伝子多様性が高い。この遺伝子にも価値があるかもしれない。ミレットの中の遺伝子によって、治療や薬に利用できる可能性がある。ミレットを変革的につかえば、もっと各国の地域とのグローバル貿易の機会がある。
ミレットを見たことがない
ミレットの利点がわかってきたと思うが、「ミレットがそんなにいいものなら、なぜ私がスーパーで買うどころか、見たこともない」と言いたい人もいるかもしれない。
確かに日本ではあまり見ない穀物である。あるとしてもせいぜい専門店だろう。しかし日本以外では少しずつミレットの人気が広がっている。例として現在アメリカで栽培しているところを調べよう。このブログ5を読んだら以降のことが分かった。
アメリカでミレットが栽培されている
アメリカのコロラド州ではJean Hediger(ヘジガーさん)がキビを育ている。しかし、今までミレットのことを知らなかった多くの人と違って、ヘジガーさんはもう20年ほど前からこの穀物を育ててきた。ヘジガーさんの近所でミレットの熱烈でよく知られているヘジガーさんはミレットの女王とも呼ばれているようである。
ヘジガーさんはミレットの利点をよくしている。乾いたコロラド州の中でもヘジガーさんのファームでは雨が非常に少ない。この地域の一年の降水量は380㎜しかない。それに比べ、アメリカと日本の平均それぞれは715 mmと1668 mmである6。
近年温暖化の影響で雨が少ない年が多くなっているため、だんだん栽培してみたい人がヘジガーさんのところに電話かける。
何でミレットはこんな乾いた地でもよく育つのだろう。この記事によると、ミレットはC4植物だから水が少なくても大丈夫。C4植物の光合成が効率的であるため、水が少ししか要らない。記事はキビのことがC4だと示しているが、他にC4ミレットの種類も多いようである7。
それからまとめとして、この記事では次の点が挙げられている:研究によって、ミレットのグローバル販売を10%増加出来たら、環境と貿易に深い影響を与えるらしい。
日本では?
それでは、地球を回ってきたが、日本でのミレット栽培状況はどうだろう。想像の通りに、今は栽培面積が非常に少ない。例えばヒエは1880年に103,600Haの面積であった8,9が、2018年に58Haまでにも減少した。日本で昔から栽培されてきたミレット(ヒエ、アワ、キビ、モロコシ)の現在の栽培面積を全部合わせても、わずか250Haである10。
日本の東北で昔は主食だったミレットは、今ではほとんど知られていない。こういう話はよく聞く。昔ながらの農業方法も忘れられていく。ミレットのほぼ全滅の原因は、簡単に言うと、消費者の選択である。この話は長くなってしまうのでまた別の機会に書きたいが、ここで大事なことは、ミレットより白米がよいイメージを持った。昔ミレットに比べて作りづらいお米は贅沢な食べ物だった。日本国民は近代化が進むと、ミレットより白米を好んだ。同時に新技術によりお米は豊富になり、ミレットを食べる必要がなくなった。
現在、パンの人気が広がるにつれ、日本人の大好きなお米でも徐々に食べられなくなってきている。この日本では、以上注目した利点があっても、果たしてミレットが復活できるのだろうか。私はこの可能性をもっとしらべたい。
脚注
- たとえば、Pearl millet(トウジンビエ)、proso millet(キビ)、foxtail millet(アワ)、barnyard millet(ヒエ)、little millet(スマトラキビ)、kodo millet(スズメノコビエ)、browntop millet(ケニクキビ)、finger millet(シコクビエ)、Guinea millets(ブラキアリア・デフレクサ)、fonio(フォニオ)、sorghum/great millet(ソルガム・タカキビ・モロコシ)そしてteff(テフ)等々である。 ↩︎
- Food and Agriculture Organization of the United Nations ↩︎
- FAO記事 ↩︎
- https://www.fao.org/fao-stories/article/en/c/1628815/ ↩︎
- Modern Farmer 記事 ↩︎
- Food and Agriculture Organization, electronic files and web site. ↩︎
- C4植物のきほん ↩︎
- TOMOSABURO YABUNO 1987 Japanese Barnyard Millet (Echinochloa utilis, Poaceae) in Japan. Economic Botany, 41(4), 1987, pp. 484-493 ↩︎
- Takahiro Mitsui 2020. Journal of Ethnic Foods. 7:31 A decrease in eating barnyard millet in Iwate prefecture: a literature review of Iwate no Hoken (hygiene in Iwate) ↩︎
- (あわ、ひえ、きび、もろこし種子の生産・供給 特産種苗 No. 31. 2020 Oct. 公益財団法人 日本特殊産農作物種苗協会 ↩︎
- 成形図説ライデン大学ディジタル ↩︎
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